演奏でミスを怖れていませんか? 理由と対策
ミスをしないよう目指して練習していませんか?
こんにちは。
ステージに上がる音楽家のフィジカルセラピスト新堂浩子です。
実は、私たち日本人は、他の国の人に比べると、異常にミスすることを恐れています。
でもそれでは、せっかくのコンサートを楽しむことができません。
ドイツ在住のオペラ歌手、車田和寿さん、ピアニストの反田恭平さんの意見を交えてお届けしますね。
※ミスタッチをなくす方法の記述ではございません。
見出し
演奏でミスを怖がる理由
ミスしたら音大に落ちてしまう?
まずは、ドイツ在住のオペラ歌手、車田和寿さんの動画、『演奏家の失敗!許せますか?気になりますか?』より。
1’30″~「一音でも間違えたら、受験やコンクールで落ちてしまう、と言われます。試験官でないからわかりませんが、小さい頃からミスしたらダメな演奏というプレッシャーにさらされることになります」
学校教育においても、100点満点から減点されます。
間違ってはいけない、間違うことは恥ずかしいという概念が植え付けられます。
このように、音楽や学校など教育の中で、ミス、間違うことに対して、大きく恐れを持ちます。
日本人は遺伝子レベルで怖がり
日本は、自然災害が多い国です。
地震、津波、台風、火山噴火、最近では大雨も脅威となっています。
自然災害が頻発する小さな島国で生き残るためには、警戒心が必要だったと考えられています。
そのせいかどうか、遺伝子レベルで日本人は怖がりです。
脳内の神経伝達物質として働くセロトニン(5-HT)は、別名“幸せホルモン”と呼ばれていて、精神を安定させる働きがあります。
日本人は他国の人に比べて、このセロトニンが少ないのです。
セロトニンには型が5種類あり、遺伝子の型を大きくLL型とSS型で見ると、
LL型;非常に楽観的な性格、ストレスを感じる状況でも精神的に安定
米人32% 日本人1.73%
SS型;慎重で不安を感じやすい
南アフリカ人28% 米人45% 日本人80%
つまり、アメリカ人と日本人が100人ずついると、非常に達観的なアメリカ人は3割いるのに、日本人には2人もいない、不安を感じやすいアメリカ人は半分もいませんが、日本人は8割もいます。
日本では国民のほとんどが、楽観的でいられず、慎重で不安を感じやすい。
ゆえに、正確でなくてはならないと考えます。
日本では電車が来る時間が正確で、それに他国の人が驚くのも、うなづけますね。
セロトニンは、ドーパミンやノルアドレナリンなどの感情的な情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります。
生体リズム・神経内分泌・睡眠・体温調節などの生理機能と、気分障害・統合失調症・薬物依存などの病態に関与しています。
完璧主義
一般的な日本人の中でも、よりミスを許せないのが、完璧主義者です。
完璧主義の人は、完全無欠であろうとし、それを証明したい、人に認られたいと考えます。
コンクールで一位になりたがります。
自分がミスをすることを受け入れられず、ミスすることを許せません。
ミスを怖がっていると
伝わるものがない
音楽の本質は、作品を味わい、楽しむこと。
音楽は、言葉にならない感情、情緒を音で表します。
悲しみ、嬉しさ、気持ちいい、楽しい、怒り、どうしようもない想いを、慰めたり、共有したり、発散したりします。
曲に込められた作り手の想いを、楽器や声で奏でて、聴く人とわかちあって一緒に楽しむことではないでしょうか。
ミスを恐れていると、演奏の目的が「ミスのない演奏をすること」になってしまいます。
それが目標になってしまうと、余計、ミスが恐くなってしまいます。
ミスなく弾けても、想いや風情が伝わらなければ、機械の演奏と変わりません。
完璧主義だと、自分がホールで聴くときも、作品で伝えたいことよりも、”完璧な演奏”に感動してしまいます。
自分がミスすることに厳しいと、人の演奏を聴くときに、ミスに厳しくなります。
人にもノーミスな演奏を求めてしまいます。
ミスも音楽の一部
前述の動画の中で車田さんも、
「ミスを恐れていると音楽の本質的なところが見えなくなってしまう。音楽が窮屈で退屈なものになってしまう。
ライブには、生の演奏に加え、録音にはないものがある、演奏家と聴衆の心のやりとりは何物にも変えがたい」
また、ホロヴィッツはミスタッチの多さを指摘されると、「それも音楽の一部だ」と答えたと。
音楽にはミスしない演奏よりも、大事なことがある、と言われています。
反田恭平さん曰く
反田恭平さんはラジオで、「日本のアーティストは基本的に億劫です。自分の我を出すのは苦手、イマジネーション能力、何を届けたいのかわからないとよく言われる」
動画ラジオ番組 Growing Sonority「演奏スタイルにもお国柄はある?」より
ミスを怖がらなくなるには
曲に共鳴する
曲は何世紀も前に書かれたり、1960年代70年代のものだったりします。
作り手の感情や情景、意図を汲み、曲を深く理解できるといいです。
今は、作った音楽家の時代背景や境遇、さまざまな情報を、本やネットで知ることができます。
また、他の人の録音や意見など、たくさん参考にできます。
ライブなら、今この瞬間、その曲を奏者とお客さんと一緒に楽しんでいます。
たとえミスがあっても、響きで伝わるものがあれば、「感動した。いい演奏だった」「楽しかったな」という感想の方が優位で、ミスなんて気にならないでしょう。
感性を磨く
あなたの今の年齢、感性、肉体、技術でもって、譜面(や耳)から響きにします。
どれだけ作り手の意図や感情を汲めるか、どのように響かせるかは、その人の感性によります。
難しいですが、どうしたら作り手の気持ちに少しでも近づけるのか、考えてみるといいでしょう。
あるいは、なぜ、その曲を弾きたいのか? その曲のどういうところが好きで、何に惹かれたのか? 考えてみるといいです。
同じ人でも20代、50代、80代と年齢が進むと、曲の解釈、響かせ方が違ってきて面白いです。
セロトニンを増やす
どのくらい効果があるかはわかりませんが、神経質にならない方法として、参考までに載せます。
セロトニン研究の第一人者有田秀穂氏(東邦大学名誉教授)『有田秀穂先生に聞く「セロトニン」で毎日元気に過ごす方法』より
1、太陽の光。朝起きたら太陽の光を浴びること。
2、ウォーキング、意識的な深呼吸などのリズミカルな運動。ウォーキングに集中すること。通勤時の歩行ではだめ。
3、おしゃべりやスキンシップなど、グルーミング行動。
最後に
人間は誰も完璧ではありません。ミスをする生き物です。
ミスがあっても、いい演奏はできます。
完璧主義でミスすることを受け入れないと、自分はまだ不十分と自己批判し、息苦しい人生になってしまいます。
誰しも不完全な部分があることは当たり前です。
すべての人が完全でないように、自分に厳しくせず、ミスをする自分を受け入れてください。
完璧さよりも人間らしさ、人の弱さや優しさ、そういったものを音楽で伝えられたら、すばらしいと思います。
完璧主義は自分で気づきにくい。メール講座の中に詳しく書いています。
『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』
《ミュージシャンボディトレーナー新堂浩子》 バイオリン、ピアノ、トランペット、アコギ歴。 趣味は、大人から始めたクラッシックバレエ♪ 詳しくは ≫プロフィール |