ステージのあがり【原因編】ポールやリンゴも悩んでいる
なぜ、ステージで歌ったり演奏したりすることは怖いのでしょう?
なぜあんなに練習したのに、頭が真っ白になったり手が動かなくなってしまうのでしょうか?
こんにちは。
ステージに上がる音楽家のためのパーソナルトレーナー、新堂浩子です。
ステージ恐怖症のためにコンサート活動を6年も中止した大スターがいます。
ポール・マッカートニーやリンゴ・スターですら、あがりに苦しみ未だに公演前に不安になるそうです。
ここでは音楽家を対象としたステージフライトStage-frightについて、身体面の変化やその要因についてです。
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あがるとは
あがりの身体的メカニズム
あがりは、心と体をつなぐ自律神経系によって体に症状が表れます。
自律神経系ー体は自律神経系によって自動でコントロールされています。
交感神経系;闘争、逃走、興奮モード
副交感神経系;消化、休息、リラックスモード
不安を感じる、ストレスがかかる状況になると交感神経系が優位になります。
交感神経系が優位になると、アドレナリンという神経伝達物質が分泌されて、下のような症状が出ます。
・鼓動が激しくなる→血流が増える
・呼吸が速くなる
・筋肉に血液が多く流れてかたくなる
・体、手が汗ばむ
・震え
・胃が締め付けられる
・口が渇く
・頭が圧迫されるような痛み
・ネガティブな思考
・満足に動けない
不安を感じると、体が自然に反応して逃げるか戦うかの準備状態になり興奮します。
人前で緊張したり、あがったりすることは正常な反応です。
極端な場合、パニック障害を起こすことがあります。
命に危険はありませんが、症状の激しさに身の危険を感じます。
・急に呼吸が苦しくなる
・動悸が激しく、胸に強い痛み
凍りつき、頭が真っ白になる
大きく恐怖を感じると、体がかたまったり頭が真っ白になります。
フリーズしたようになって、動きや譜面など覚えた脳内のプログラムを読み込みにくくなります。
これは凍りつき現象と言い、身の危険を感じるような恐怖を感じると、逃げたり闘ったりしないでじっとして身の安全を守ろうとする反応で、かたまります。
ステージ恐怖症
あがりは、軽いものとひどいもの(ステージ恐怖症)がありますが、境目がありません。
適度な緊張は、実力を最大限に発揮する刺激になります。
一般の人の場合、あがりがひどく社会生活に支障をきたすようなものを、精神医学的にあがり症、社会恐怖、社会不安障害、回避性人格障害といいます。
人と会話できない、緊張しすぎて買い物ができない、赤面症など日常生活や仕事が困難になります。
音楽家の場合も、ステージを回避したくならないことが大切です。
実力を出す場面でのプレッシャー
スポーツ選手の場合も、大会では実力やそれ以上の結果を出す必要があります。
オリンピックや世界大会など何万人もの観客やテレビで日本中が見ている中、結果を出すことのプレッシャーは計り知れません。
一般の人があがって緊張するのと違って、音楽家やアスリートなど能力を出す場合の緊張を遂行不安と言います。
大スターもステージ恐怖症
スターになる程、何千何万もの人の目に晒されます。
カーリー・サイモン
ステージ恐怖症でコンサート活動を6年も中止しました。
「初めてのコンサートの時、ステージの上で倒れてしまうんじゃないかと本気で思った。
次の公演の時には、1万人の観客が待つ会場から私は逃げ出してしまった。
たくさんの人に見られると思うと怖くなって…」
ポール・マッカートニー
極度のあがり症のために60年代の初めにビートルズを辞めそうになったと語っています。
『何てこった。恐ろしくなるよ。みんな僕が嫌いなんだ。それって本当に怖いことだ』って思っちゃうんだ。
「胃が締め付けられるようで、身体的な不調を感じたのを覚えているよ。
その時に『これは諦めるべきだ。あまりに痛すぎる。僕は一体何をしているんだ』って思ったんだ。
https://nme-jp.com/news/28709/
リンゴ・スター、ステージ恐怖症を語る
「緊張感が高まると、ステージに上がる前に吐いていたんだ。
これは私の一部だし、毎回ショーの前にそうなる。
緊張しすぎるあまり、とにかくベッドに戻りたいと思う時もあった。」
https://news.aol.jp/2012/04/12/ringo-starr-stage-fright/
どうしてあがるのか
緊張するわけ
他人の評価に晒されたり、他人から見られたりすると、よく思われたいという気持ちが不安を引き起こします。
大事な場面でプレッシャーを感じストレスとなって、いつも通りの行動ができなくなってしまいます。
人に高く評価されたいという気持ちよりも、自分のことを気にしすぎてしまうせいで怖くなります。
自分のあるべき姿、自己の理想のイメージが高いことでハードルをあげてしまいます。
心理的要因
◆ トラウマ
トラウマというと幼児虐待やいじめの被害などによる過去の心の傷をさしますが、身体面をからかわれた経験、失敗したり恥ずかしい思いをした経験、叱られた記憶、事故や怪我の目撃、体の痛みなどもトラウマとなります。
怖い思いやネガティブな体験は、強い感情的な負荷を抱え込み、トラウマが無意識に脳に蓄積されます。
身内やメディア、ファンの批評によって心が傷ついてもトラウマになり得ます。
無意識のうちに積み重なったトラウマは、不安を大きくさせかたくなり症状を悪化させます。
災害や暴力、戦争体験などで起こされるPTSD(心的外傷後ストレス障害)のように、記憶と症状のつながりがはっきりしたものではありません。
動きの悪さや精神的に混乱する自覚はありますが、不安や恐怖、困惑する思考とトラウマ的な経験とのつながりを自覚できません。
◆ 家庭環境
厳しすぎる親などの影響によるもの。
社会的要因
欧米では自分が愚かな人間に見られることに対して不安を感じるのに対して、日本人は人に迷惑をかけることを恐れるのだそうです。
欧米諸国が個人を尊重する社会であるのに対して、日本が集団における調和を重視する社会であること、家族や所属する団体に従うことを重んじているからと、精神科の調査で推察しています。
育った環境や社会的な要因で知らないうちに植えつけた信念のような観念は、本人が自覚しないので心理療法で覆しにくいものです。
家庭環境や社会的要因は個人ではどうしようもないと思いがちですが、知ることで考え方を広げたり変容することはできます。
私の場合
私の場合、バイオリンやピアノを人前で弾くことはもちろん、一番あがったのはバレエで人前や先生達の前で一人で踊ることでした。
人前で踊ることはそれまで経験した中で最も怖く、逃げ出したい気持ちでした。
その後、数日は胃痛で満足に食べれず、しばらくは潰瘍気味でした。
あとで、映画でオペラ座の男性が「舞台で踊るのが怖くて辞めようかと思った」といういうシーンを見て、
子供の頃からオーディションに慣れた天才でもあがるのだと思ったら、気が楽になりました。
40代の終わり頃、友人と見に行った映画でDVのシーンを見た後にPTSDを発症しました。
恐怖感で体がかたまり、その場にすくんで思考が停止するような感覚にしばしば襲われ、映画を見たことを後悔しました。
親の暴力、怪我をして動けなくなった後に自己肯定感が全くなくなってしまったことなど、積み重なっていたと思います。
日本のように100点満点から減点される教育を受ければ「間違ってはいけない」「正確でなくてはいけない」という観念を持ちます。
私のあがりが激しかったのも、自己肯定感の低さや、受験などによる歪んだ自意識のせいだったのかもわかりません。
『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』
《ミュージシャンボディトレーナー新堂浩子》 バイオリン、ピアノ、トランペット、アコギ歴。 趣味は、大人から始めたクラッシックバレエ♪ 詳しくは ≫プロフィール |