なぜステージフライトは繰り返すのか?凍りつきの神経学

こんにちは。

ステージに上がる音楽家のためのパーソナルトレーナー、進藤浩子です。

 

前回、あがりが克服できないステージフライトを症状や心理からみてみました。

今回はこれらを神経学から見てみます。

多少こ難しいですが、ステージフライトを繰り返す訳や、あがりとの境界(がない理由)のカラクリがわかります。

もう一つの自律神経系「ポリヴェーガル理論」

体は自律神経系によって循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能などを、無意識にコントロールしています。

状況に合わせて自律神経系が色んな機能をコントロールして、体の恒常性、ホメオスタシスを保っています。

 

自律神経は一般的に、「交感神経」ー「副交感神経」の2システム、二段階とされています。

副交感神経系の8割は迷走神経という神経が占めています。

(迷走神経の他には、動眼神経、顔面神経、舌咽神経)

 

迷走神経を中心とした副交感神経系が、2種類に分かれ別々の働きをしています。

ここからポリヴェーガル理論の紹介です。

凍りつきの背側迷走神経複合体と、安全な腹側迷走神経複合体です。

 

自律神経系は「凍りつき」を含めて三段階という概念です。

わかりやすく信号の色を使って、それぞれを危険なと安全な交感神経系を黄色とします。

 

『背側迷走神経複合体』『交感神経系』『腹側迷走神経複合体』 

『命の危険、凍りつき』『火事場の馬鹿力』『リラックス』

『生への脅威への反応』『危険への反応』『安全への反応』

 

自律神経には心理が大きく作用し、身体には生理的な反応が表れ、三段階それぞれ特有の生理反応、情動反応が表れます。

脳幹より上位の脳中枢と、身体の抹消が双方向にフィードバックし合います。

 

ポリヴェーガル理論(多重迷走神経論)は、1995年ステファン・ポージェス博士によって発表されました。

ヴェーガルは迷走神経、ポリは複数という意味です。

哺乳類のみが独自にもつ自律神経系を、爬虫類から哺乳類、人への進化の過程から発生学的に説明するものです。

 

「ポリヴェーガル理論」の本

神経学の本なのでおすすめとは言いません。

わかりやすく書かれたものを検索してネット上で読めます。

ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」 2018/11/6
ステファン・W・ポージェス (著), 花丘 ちぐさ (翻訳)

「ポリヴェーガル理論」を読む -からだ・こころ・社会」
2019/6/3 津田 真人 (著)

神経や反射はとても複雑なので、ここではわかりやすくするために簡略化して書きます。

 

迷走神経について

迷走神経は、顔や喉、呼吸調節、心臓、胃などを、色んなところを走っていて、心拍は特に迷走神経から大きく影響を受けます。

(心拍や呼吸をコントロールするのは迷走神経だけでなく、多くの神経や反射がたくさん絡みます。)

運動神経でもあり感覚神経でもあるので、筋肉や臓器に作用して変化を起こし、その変化を脳へフィードバックします。

 

呼吸や顔

迷走神経は喉頭、咽頭、軟口蓋、横隔膜から上の器官の筋肉の動き、

嚥下、心臓と気管支の同期、顔面神経・三叉神経と一緒に顔の表情や発声、まぶた閉じる、口元の動き、首の筋肉、

また、横隔膜から下の内臓平滑筋の動き、心臓、消化器に作用します。

 

迷走神経は、顔面神経、三叉神経、舌咽神経と共に発生学的に、鰓弓(さいきゅう、魚のエラ)由来の神経です。

哺乳類が陸に上がって、顎で咀嚼し呼吸し音を聞くように、発達しました。

これらの神経で咀嚼嚥下し、顔や目を動かし発声し、音を聞きます。

 

これらの神経系が、凍りつき(背側迷走神経複合体)、安全(腹側迷走神経複合体という2つの反応をします。

 

腹側迷走神経複合体は、顔の筋肉と心血管系、呼吸系を統合する中枢として、発展してきたものです。

顔面は社会的関与、情動、コミュニケーション的な人間らしい動きを司ります。

背側迷走神経複合体の反応としては、恐怖状況で横隔膜より下の反応(お腹が痛くなる)が表れます。

 

凍りつき

変温動物は、危機的状況ではすぐに凍りつきシャットダウンします。

心拍数を減らし気管支を収縮させ、呼吸を浅くして低酸素になり、痛覚の閾値をあげます。

 

哺乳類になると、極度の恐怖状況で失神、気絶、解離など不動化し、生の脅威に対して適応的な防衛反応をします。

死の危険を避ける最も賢明な防衛反応です。

 

人のPTSD(心的外傷後症候群)は「背側迷走神経経路に媒介された生の脅威に対する反応」と考えられています。

トラウマ反応もまた、引き起こした出来事にではなく、本人の中で起こる「出来事への反応」の方にあります。

凍りつくトラウマ反応は、背側迷走神経複合体反応です。

(トラウマ反応をステージフライトと読み替えてくださいね)

 

凍りつき自体は、危険から身を守る、恐怖から生存を守るための防御的な働きです。

トラウマ反応が起こるような状況では、内臓器官に本来のホメオスタティックな反応を逸脱する防衛反応が出ます。

症状に内臓疾患が伴いやすく、胃の不具合、便秘下痢、過敏性腸症候群などが生じます。

 

またステージフライトになる理由

恐怖の記憶

恐怖は条件付けられます。

痛みを起こすような反応を起こす刺激(非条件刺激)に、音、光、場所状況などの条件(条件刺激)を連動させると、条件のみで凍りつき、すくみなど恐怖反応を示すようになる。

 

パブロフの犬恐怖バージョン。

お化け屋敷に入って死ぬほど怖い体験をしたら、お化け屋敷の前を通るだけで死ぬほど怖くなる、みたいな。

 

これを神経系で見ると、

①非条件刺激も条件刺激も”扁桃体”に入り、互いに結びついて条件付けが形成される

②扁桃体に恐怖記憶が保持、固定化され、以後は条件刺激のみで恐怖記憶が想起されるようになる

③条件刺激により起こされた条件反応扁桃体より入り、凍りつきなど恐怖反応を引き起こす

『背側迷走神経複合体』反応

 

④条件刺激のみが繰り返されるようになると、扁桃体に対して抑制性の制御がなされるようになり、条件反応の消去のメカニズムも形成されるようになる(LeDoux)

 

場所や状況、出来事は海馬で記憶されて、条件反応で恐怖感が繰り返されます

条件刺激のみが繰り返されるようになると、条件反応はなくなる。

お化け屋敷の前を何度か通ると、怖くなくなる、みたいな。

 

ストレスホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ステロイド)が分布されて、扁桃体はますますホルモンを出すようになります。

交感神経の亢進が作用して、恐怖感が大きくなるということです。

だから交感神経系の反応と背側迷走神経複合体の反応は、境目がありません。

 

一方、海馬や内側前頭前皮質は、扁桃体の活性を抑えるよう働きます。

 

「扁桃体の恐怖反応の亢進が、ワーキングメモリー(今していること)の空間を占拠し、恐怖や不安の情動が意識を独占する」

恐怖記憶システムが自乗的に亢進している状態が、不安障害の本体。(LeDoux2002)

 

交感神経系と境界がない

人、哺乳類であることは、危険な時、心拍を速めて気管支を拡張させ、消化を抑制して無駄なく酸素を抹消に送る、

つまり交感神経の活性が必要です。

いざという時には、爆発的な効力を持つ、人にとって不可欠な部分です。

これが、ステージで有用だといういことはあとあと説明します。

 

しかし、不適切な可動化が「ストレス」によって起こってしまうとポージェスは言います。

「幼児期の逆境体験」と「ストレス」と「トラウマ」、

「闘争逃走反応」「凍りつき反応」の間に本質的な区別は設けません。

 

あがりとステージフライトも、明確な境界はありません。

 

まとめ

  • 自律神経系は『生への脅威への反応』『危険への反応』『安全への反応』3段階
  • 迷走神経はじめとする神経系はストレスで、顔や呼吸、心拍に大きく関与
  • 条件反応で恐怖感や同じ感覚をリピート

 

次回は、ステージフライトの対策についてです。

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《ミュージシャンボディトレーナー進藤浩子》

ステージに上がる音楽家のためのフィジカルセラピスト

音楽家の不調を根本的に神経系から改善して、心技体トータルで向上して、ステージで揮けるよう支援しています。

19年医療に従事したのち音楽家専門パーソナルトレーナーに。

バイオリン、ピアノ、トランペット、アコギ歴。

趣味は、大人から始めたクラッシックバレエ、英会話

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