私たちは自分がわかる部分に目を向けがちですが、動きは、意識しないさまざまな調整が働いています。
演奏での動きの調整を理解するために、分けてそれぞれのページで説明しています。
姿勢のコントロール
人が動くとき、自分では意識しなくても姿勢をコントロールしながら、パーツを動かしています。
姿勢は、反射的な制御が働いています。
姿勢に必要な感覚
意外なようですが、目や耳が、姿勢に大きく関わっています。
姿勢は,主に視覚,体性感覚、前庭感覚により制御されます。
視覚
視覚は,周囲との相対的な位置関係の情報で、見えているだけで自分を安定させています。
私たちが片足立ちをしていて、目をつむると途端に身体のバランスを保ちにくくなります。
体性感覚
体性感覚は、足底など身体を支持しているところと身体の、相対的な空間での位置関係です。
筋肉にある筋紡錘や関節にある受容器の感覚を、固有受容感覚感覚といいます。
重力による体性感覚、固有受容感覚感覚で、動きや位置を感知します。
ピアノで、両腕を低音側に伸ばして体が左に傾くと、筋肉や皮膚、腕にある受容器に感覚が生じます。
左側の体幹の筋肉や皮膚が収縮した感覚、また、腕の筋肉や関節にある受容器により、空間での位置を感知します。
前庭感覚
耳は聴覚器官ですが、身体の平衡感覚(前庭感覚)も司っています。
前庭器官の三半規管(半規管)は中に液体を入れ、その揺れで立体的に頭の回転を感じ、耳石器が垂直加速度を感じます。
耳の図
内耳神経は、聴覚を司る蝸牛神経と平衡覚を司る前庭神経
姿勢制御
姿勢制御には、視覚、前庭感覚、固有感覚、皮膚感覚から感覚を受容し、これらの感覚情報を、小脳で統合して身体の状態を認識します。
立位や座位で安定するために、体幹や脚の筋肉を緊張して平衡をとります。
表層の骨格筋だけでなく深層筋(インナーマッスル)も使っています。
例えば、電車に立っていて、不意に電車が揺れて足元が不安定になると、
反射的に脚の筋を緊張させて抗重力し、バランスをとり安定させます。
演奏での姿勢制御
演奏では、随意的な手足の動きに、能動的、予測的にバランスを維持します。
演奏での姿勢は
・姿勢を予測的に調整、平衡
・左右両側を支配
・体幹筋、近位伸筋群を制御
(近位とは、中枢、脊髄に近い方のこと。遠位は逆に、指先など末端側のこと)
大事なことは、楽器に触れる指は、手、前腕、上腕、背中からの筋肉、すべてが連なって協調して動いています。
随意運動の指令
大脳皮質の一次運動野というところから、特定の部位の運動指令を組み、出しています。
前頭前野(前頭連合野)→ 高次運動野(運動連合野) → 一次運動野 → 脊髄
一次運動野への主な入力源である高次運動野へは、運動前野、補足運動野、帯状皮質運動野から入力、さらに、視床から入力を受け、大脳基底核や小脳がこれらの核へ投射しています。
一次運動野が、視覚、聴覚、圧覚、体性感覚の多様な情報を統合することにより、適切な運動指令の形成がなされると考えられています。
一次運動野では、随意運動のプログラミングに関わる高次運動野や、頭頂連合野からの入力を統合して、最終的な運動指令を形成し、これを脳幹、脊髄へ出力します。
運動野、体性感覚野、大脳基底核(青字)
(管理薬剤師.com より)
脊髄 → 骨格筋
首の頚椎から出入する神経叢が手を動かしたり、腰椎から出入りする神経が脚の筋に付きます。
運動神経と知覚神経が合わさります。
一次運動野から運動指令は、脊髄から筋肉に伝わります(皮質脊髄路)。
脳幹の延髄で、神経線維の80%は左右の反対側に交差します。
・手足の随意筋
・反対側支配
・遠位屈筋群を制御
(遠位とは中枢、脊髄から遠い指先など末端側)
・感覚の入力
看護roo! より
運動の調整
動くと多くの感覚が生じ、さまざまな情報処理と伝達が同時になされ、運動は調整されます。
あらゆる感覚と身体全ての運動が、脳のさまざまな領域に伝達し、統合、判断されながら、時々刻々と変化する感覚と運動を、お互いが自動調整しています。
皮膚や四肢にある多数の感覚受容器からの信号が、大脳皮質の一次体性感覚野に伝わり、統合されます。
ただ、個々の領域内にある数百億から数千億ともいわれる神経細胞、それらが一体どのようなつながりと活動によって、無数の動作パターンを生み出すのか、よくわかっていません。
感覚情報と運動野がどのように統合されているのかも、わかっていません。
手や腕の個々の感覚受容器の情報は、ごく一部の情報です。
屈筋と伸筋など多数の筋肉を,数ある動作パターンで協調的に制御できる回路の仕組みは不明です。
私たちは自分がわかる部分に目を向けがちですが、動きは、意識しないさまざまな調整が働いていてます。
体の動きでも演奏でも、動きの調整には皮膚などでわかる表在性の感覚よりも、深部の体性感覚とか、
姿勢でアウターマッスルよりもインナーマッスルとか、意識できないところの働きが重要です。
『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』
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